2019年4月5日18:00PB:DeNA vs 巨人
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E | |
巨人 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 3 | 9 | 0 |
DeNA | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 6 | 0 |
「エース菅野」という言葉を、これまで私は軽く使っていたのかもしれない、と反省している。
この日、レフトスタンド外野席から見つめた背中には、あらゆるものがのしかかっているように見えて、軽く言葉を使っていなかったか?と直感したのだ。
巨人のエースとしての責任。
日本球界屈指の投手としての責任。
彼の姿には、鬼気迫るものがあった。
予測的中
私はこの試合を楽しみにしていた。DeNA・今永、巨人・菅野両投手の投げ合いである。エース対決である。
当ウェブマガジン主筆・副編集長の保科さんと、数日前からこの試合の事前予測を行なっていた。
余談だが、保科さんは私より3歳も若い(いわゆるプラチナ世代)ながら人生の先輩感を漂わせる人で、ある一定の年齢を過ぎれば、年齢など関係ないのだということを、話すたびに思っている。
さて、保科さんはこの日の試合を「今日は空中戦になるかもしれない」と予測していた。
私は「さすがにないだろう」と思った。いかに浜風が強かろうとも、両エースともそのことは頭に入っている。
しかし、それが浅はかな考えだったことは、試合開始後すぐに思い知らされることとなった。
試合開始
私はこの日が今シーズン2試合目の登板となる、DeNAの今永投手に注目していた。
先日行われた第1戦で目が覚めるような素晴らしい投球をしていたというのもあるが、デビュー以来、彼には「やられている」感がこびりついている。
昨年の一時期は少しばかり調子を落としていたとはいえ、2015年からの横浜を引っ張る原動力のひとつ、もっと言えば中心選手のひとりなのではないかと思う。
しかし、試合はすぐ動いた。
1番の吉川尚輝選手が打ち取られたあと、2番の坂本勇人選手がいきなりライトスタンドにホームランを叩き込む。低めのストレートをうまく捉え、すくい上げた打球は、ぐんぐん伸びてライトスタンドへと消えていった。
驚いている暇も、喜びきる暇もなかった。今度は続く丸佳浩選手がレフトスタンドに放り込んだ。通算150本塁打は、風向きを味方につけた技ありの一打だった。
逆方向へのホームランが2本続いたのだ。
ここで私は、完全に気が抜けてしまった。
「菅野に2点の援護」。
余裕なんじゃないか。
しかし、この予想もあっさり外れてしまう。
ソト選手、筒香嘉智選手のクリーンナップが連発ですぐに取り返した。
まずはソト選手である。打ったのは150km/hストレート。球威十分だった。
続く筒香選手。内角の変化球(スライダーだと思う)を見事に打ち返し、新設のライトスタンドウイング席に叩き込んだ。
去年だったら場外弾になったのではないか。特大弾だった。
2ー2。イーブン。
恐ろしいことになった…。
投手戦、開戦
その後は非常に締まったゲーム展開が続く。
両投手は、回を重ねるごとに見事自分の投球をアジャストし、2回以降は決定機を作らせなかった。
こちらはといえば、1球1球を、噛みしめるように見守っていた。
こんな試合は何試合振りだろう。
被弾した後、両投手とも同じような表情をしていたのが印象的だった。
被弾直後は「マジかよ」という顔をしていたが、しかし、ショックさは微塵も感じさせない。
一瞬で切り替えているのが、表情から見て取れたような気がした。
豪快弾で万事休す
投手戦は続いた。
試合を決した一打もまた、ホームランだった。
7回のゲレーロ選手によるバックスクリーン直撃弾によって、試合は決まった。
失投を捉えた会心の特大弾。
3本の本塁打すべてが、とにかく伸びていた。
7回をリードで迎え「この回までかな」と話し合う我々。しかし、当然のようにベンチ前でキャッチボールを行ない、マウンドへと向かう菅野投手。
よく考えてみたら、2点連打で失点したとはいえ、堂々のハイクオリティスタートなのだ。
本当の驚きは、ここからだった。
「…菅野、ギア上げてきましたね、竹谷さん」と保科さんが耳打ちする。
8回を過ぎても平然と投げる、投げる、投げる…。スピードガンには152km/hが連続して表示される。
この回の投球がまた凄まじかった。第1打席で豪快弾を叩き込まれている筒香選手にはほとんどストレートを投げ、力で投げ勝ったのだ。審判がストライクのコールをした瞬間、鳥肌がたったのが自分でもはっきりとわかった。
9回も行くんかい…。さすがに無いよな、と思っていたことが、目の前では現実になっていた。
電光掲示板にふたたび目をやる。
投じた球数は、実に137球にも及んでいた。
137球。
そんな数字をプロ野球の試合で見たのは、初めてだ。
意地と意地のぶつかり合い。結局、7回のゲレーロ選手のホームランで試合は決まった。徹頭徹尾、ガチガチに締まりきった試合。プロ野球のスゴさを凝縮した素晴らしいゲームだった。
巨人、DeNAの両選手に心から拍手を送りたい。
ただ、なんといっても、やはり菅野投手である。
かっこいい、すごいを通り越して、鬼気迫るものがあった。
「エース」という言葉には、常人には理解できない重みが乗っかっているような気がした。
感謝の念を噛みしめつつ、球場を跡にした。
最後に:この機会を与えてくださった横浜市のN様には、この場を借りて重ねて感謝申し上げます。いつも本当にありがとうございます。
